宇宙太陽光発電により将来的に地球各地に電力供給も可能?

宇宙太陽光発電により将来的に地球各地に電力供給も可能?

宇宙太陽光発電システムのイラスト
アメリカ国防総省の研究チームが、宇宙空間でピザの箱ほどの大きさの太陽光パネルの試験に成功しました。
これは将来、宇宙から地球のあらゆる地点に電気を送るシステムの開発を見据え、試作機として設計されたものです。
また、今年1月にはEU加盟27か国の再生可能エネルギーの割合が化石燃料を上回るというニュースに関する記事を書かせていただきましたが、宇宙のエネルギーを地球に送ることが出来れば、化石燃料に頼らなくてもいいというだけでなく、エネルギーが必要な地点に迅速に送ることが出来るかもしれません。

今回は、宇宙太陽光発電による利点と、各国の開発計画、長所や短所について解説します。

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太陽光発電高周波アンテナモジュール(PRAM)

まずは今回話題となったピザの箱ほどの大きさの太陽光パネルというものが一体どういったものなのかを紹介いたします。
このパネルの名称は、“太陽光発電高周波アンテナモジュール”と呼ばれるパネルで、“PRAM”と略されています。
このパネルは、

国防総省の無人機で、地球を90分で1周している“X37B”に取り付けられ2020年5月に初めて打ち上げられました。

宇宙空間にある太陽光を最大限に活用するように設計されたこのパネルは、縦横12インチ(約30センチ)のパネルによって、地球に伝送するエネルギーを約10ワット生み出せることが判明しました。
大まかに言うと、タブレットコンピューターの作動に十分な電力となります。
プロジェクトの構想ではこのパネルを数十枚並べる予定で、成功すれば、発電や地球の遠隔地への電力供給の方法に革命をもたらす可能性があるパネルと言えます。

宇宙太陽光発電(SBSP)とは

そもそも「宇宙太陽光発電ってなんだろう」と思った方も多いのではないでしょうか?

“宇宙太陽光発電”略して“SBSP”は、

宇宙空間上で太陽電池を備えた衛星を配置し太陽光発電を行い、その電力を地球上に送り、地球上で電力を使用しようというコンセプト、アイデアです。

電線を用いないワイヤレス方式での電力伝送の方法として昨今研究が進んでおり、放射型ワイヤレス電力伝送に分類されています。
伝送手段として候補に挙がっているのは、マイクロ波を用いる方式や、レーザー光を用いる方式などがあります。
SBSPの研究そのものは1970年代からされていて、このアイデアのシステム全体を“宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power System)”と呼び、“SSPS”と略されています。

宇宙での太陽光発電による利点

では宇宙で太陽光発電を行うことがどんな利点となるのでしょうか?

地球から空は青色に見えますよね。
その理由は、光が大気に突入する際に青色光が散乱するからで、地上の太陽光パネルは大気により弱まった光を得ているということになります。
一方、宇宙で光を拾った場合、

大気を通過しないため青色光を保持している分地球に届く光よりも強力となります。

また、宇宙で太陽光発電が他の発電源にない利点としては、実現することが可能なら、世界の各地に電力を送ることが出来るという点です。

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各国の宇宙太陽光発電の開発計画

宇宙太陽光発電は、1968年に初めて提唱されて以降、様々な国で研究が行われましたが、非常に大型のプロジェクトであり、さらには必要となる資金も莫大であったため、

国としての継続的な研究は行っていないという状況にある国が増えてきております。

アメリカでは2007年、国防総省から宇宙太陽光発電所の開発計画案が公表され、現在最新の研究としましては、上述したPRAMを取り付けた国防総省の無人機“X37B”の打ち上げになります。
自国での資源の乏しい日本では、エネルギー源を確保すべく研究開発が進んでおり、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の研究チームにより、2020~2030年の間の実用化を目指しており、

電気とマイクロ波を相互変換させる際の変換効率を改善することが当面の課題だとしています。

中国では、2008年に宇宙太陽光発電所の研究開発を、国家先期研究計画に盛り込み、他の国への猛追を見せ、世界で初めて実用的な価値を持つ宇宙太陽光発電所を建設する国は中国ではないかと言われております。

長所と短所

多くの利点が挙げられる宇宙太陽光発電の開発ですが、以下に長所と短所をまとめました。

長所

  • 地上での太陽光発電に比べ設備あたりの発電量が多い。
  • ほぼ1年中24時間発電が可能になる。
  • 地上のソーラーパネルより安定したエネルギー供給が可能になる。
  • 環境汚染を引き起こさない。
  • 資源の枯渇の心配が無い(再生可能エネルギー)。

短所

  • 初期投資が非常に高額になる。
  • 太陽電池(光エネルギーを電気エネルギーに変換する電力機器)が必要な場合、宇宙塵やスペースデブリなどへの対処が難しい。
  • 周波数によっては、漏洩電波や高調波により衛星やその他無線通信への電波障害が生じる。
  • 軍事転用や“誤射”のリスクがある。
  • 宇宙空間では地上に比べ劣化が激しいが、故障した場合の修理が非常に難しい。
  • 衛星軌道上に設置した場合、太陽光圧の影響が大きいため、頻繁に軌道修正が必要になる。
  • 定期的に推進剤を補充する必要があるため、コストがかかる。
  • 伝送方法がレーザーの場合、受信設備の天候に影響を受ける。

まとめ

宇宙太陽光発電による利点、長所や短所について、お分かりいただけたでしょうか?
一時期、多くの国がその開発から手を引き、“莫大な設置コストから採算がとれない”と一部の専門家から「馬鹿げた計画」と揶揄されてきた宇宙太陽光発電ですが、

また世界中で注目されるようになってきました。

実現すると太陽が消滅するまでエネルギーの枯渇の心配がなくなる夢の計画。
今後も注視していきたいですね。

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